心の天秤が大きく揺れた。
どちらが大切なのか。愛しいのか恋しいのか、欲しいのか。
嘘で塗り固められた私の心はすぐに答えを出せずにいた。――こんなに最低な女なのに、彼は私に全てを委ねた。これからの未来を。ずっと続くかわからない、短いのか長いのかわからない、私たちの未来を。
ただ彼は怒るでもなく、そっと「どうしたい?」と尋ねてきた。切れ長の目は伏せられて、そこらの女の人よか綺麗な顔を曇らせて。
汚い私に問うてきた。
この身体が彼以外の男に触れられたばかりなのに。
それも一度や二度と言う次元ではなく、彼より他の男に触れられた方が勝る。
それを許す汚れた私に、最後の審判を委ねる彼。
「君はどうしたい?」
そう問い掛ける彼の声がいつもより沈んでいたのは確かだ。…微かな違いだけれど。そう気付いたのは、学生時代に激しい波に揉まれながらようやく結ばれた私たちだから気付くので、絆は深かった。……その絆の深さは遠距離になるまで何にも負けないと信じていた。
けれどそれが夢である事に気付いた。遠距離になっても私たちはプラトニックな関係で、それが私の心に隙間を作った。満たされない欲求が猜疑心を生み、そして満たされたいという欲求が心を蝕んだ。
そして私は墜ちていった。
「…どうしたいのか、わからないわ」
そう吐露すると彼はそうかと呟いた。
――どうしたいのかわからないけど、満たされたいの。
心も身体も全て何かが枯渇していて、酷く飢えを感じる。全てがつまらなくて、意味がなくて。寂しいんだ。
……そう、寂しいんだ。
「……どうしたいのかわからないけど」
「けど?」
なんて身勝手な人間なのだろう。彼の愛を無償だと信じて、彼を欺きそして自分さえも偽ってきた。
なぜ触れてくれないのか。
触れられる場所にある時、触れてくれないもどかしさ。…そして自分から言えないもどかしさ。寂しさ。
「寂しいの。寂しかったの」
自分勝手でごめんなさい。
その時、涙が零れた。
涙を零したのは、いつぶりだろう。寂しくて悲しくて、心が泣く事を拒否し続けた。泣ける程、心に元気がなかったんだ。
「触れてほしいの……」
こんなに汚れたけど。
でも最後の審判を下す権利をくれたあなたに、まだ希望を見出だしたいの。
「私達はもう大人よ…?」
綺麗な、優しいあなたに触れたいの。悲しくて、恋しくて。あなたで満たされたい――……
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- 2007/11/26(月) 21:42:15|
- 現代|
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